アドトラーザとデュピクセント違いを図解で比較

アトピー性皮膚炎の治療で、新しい注射薬「アドトラーザ」と「デュピクセント」のどちらを選ぶべきか、迷っていませんか。先行する治療薬で効果が不十分だったり、副作用が気になったりする方もいるでしょう。
この記事では、作用の仕組みや効果の現れ方、副作用の発生率、費用といった5つの重要な違いを、臨床試験のデータも交えながら詳しく比較します。
読み進めることで両剤の特徴が明確になり、ご自身の症状やライフスタイルに合った治療法を、医師と相談しながら納得して選ぶための一助となります。
アドトラーザとデュピクセント 5つの違いを徹底比較
アドトラーザとデュピクセントは、どちらもアトピー性皮膚炎のつらい症状を引き起こす原因物質(サイトカイン)の働きを抑える注射薬ですが、その特徴は異なります。
主に異なるのは次の5つのポイントです。
- 作用の仕組み(どのサイトカインを抑えるか)
- 効果の現れ方(かゆみや皮疹への効き目)
- 通院の頻度(投与間隔)
- 自己注射の可否
- 副作用の種類や頻度
これらの違いを理解することは、ご自身の症状やライフスタイルに合ったお薬を選ぶ上で、とても重要です。
作用メカニズムの違い IL-13だけか、IL-4とIL-13両方か
アドトラーザは炎症を引き起こす「IL-13」という物質だけを、デュピクセントは「IL-13」と「IL-4」の両方を抑えるという違いがあります。
アトピー性皮膚炎の患者さんの皮膚では、免疫が過剰に反応し、「サイトカイン」と呼ばれる情報伝達物質が暴走しています。このサイトカインが、かゆみや炎症、皮膚バリア機能の低下を引き起こす張本人です。
アドトラーザ(トラロキヌマブ) アトピー性皮膚炎の病態に中心的な役割を果たす「IL-13」というサイトカインの働きだけをピンポイントで抑えます。※ IL-13は特にかゆみや皮膚が硬くなる症状(苔癬化:たいせんか)に深く関わっています。
デュピクセント(デュピルマブ) IL-13に加えて、もう一つの主要なサイトカインである「IL-4」の働きも同時にブロックします。
このように、どのサイトカインの働きを止めるかが、2つの薬の根本的な違いです。
かゆみ・皮疹への効果と即効性
アドトラーザは治療開始の早い段階からかゆみを抑える効果が期待でき、継続することで皮疹も力強く改善します。
「夜も眠れないほどのかゆみから、一刻も早く解放されたい」。これは多くの患者さんの切実な願いです。
アドトラーザは、複数の臨床試験において、治療を始めてわずか1週目という早い段階から、かゆみや、かゆみによる睡眠への影響が改善したと報告されています。※
さらに、実際の医療現場のデータ(リアルワールドデータ)を集めた大規模な研究では、アドトラーザの確かな効果が示されました。900人以上の患者さんのデータを解析した結果、主な評価項目は以下の通りです。※
| 評価項目 | 16週間後の達成率 |
|---|---|
| EASI-75 (皮疹が75%以上改善) | 59% |
| EASI-50 (皮疹が50%以上改善) | 82% |
| EASI-90 (皮疹が90%以上改善) | 26% |
この結果は、多くの患者さんで高い効果が期待できることを示しています。また、52週間の長期試験でも効果が維持されることが確認されています。※
投与間隔と通院頻度
アドトラーザの投与は、最初に多く注射し、その後は2週間ごとに行うのが基本のスケジュールです。
具体的な投与方法は以下の通りです。
- 初回:600mg(300mgの注射を2本)を皮下注射
- 2回目以降:2週間ごとに300mg(注射1本)を皮下注射※
クリニックで注射を受ける場合、このスケジュールに沿って2週間に1度の通院が必要になります。 ただし、次の項目で説明する「自己注射」という方法を選ぶことで、通院の負担を大きく減らすこともできます。
自己注射の可否と手技の難易度
アドトラーザは、医師の指導のもとでご自身やご家族が注射を行う「自己注射」が認められています。
自己注射を選択すると、これまで2週間に1度だった通院を、例えば3カ月に1度などに減らせるようになります。 時間的な制約が少なくなるため、お仕事や学業、家庭の用事などで忙しい方でも、治療を続けやすくなるのが大きなメリットです。
自己注射を始める前には、クリニックで看護師などから注射の方法について、安全に手技を習得できるまで複数回、丁寧に指導を受けます。 注射器は、ボタンを押すだけのペン型と、一般的な注射器の形をしたシリンジ型の2種類から、ご自身が使いやすい方を選べます。
副作用(特に結膜炎)の発生率
アドトラーザの主な副作用は注射した場所の反応や結膜炎ですが、全体として安全性は高いと考えられており、重い副作用はまれです。
新しい薬を使う上で副作用は心配な点だと思いますが、アドトラーザは複数の臨床試験や実世界での使用経験から、安全性が確認されています。 特に、先行するデュピクセントで注目された結膜炎については、アドトラーザでは起こりにくい可能性が示唆されています。
900人以上の実世界のデータをまとめた研究では、結膜炎の発生率は**約3.2%**と、比較的低い頻度でした。※ これは、アドトラーザがIL-13のみを標的とし、結膜炎との関連が指摘されるIL-4の働きを抑えないためだと考えられています。
また、大規模な臨床試験では、副作用全体の発生率がプラセボ(有効成分の入っていない偽薬)を使ったグループと同程度であったことも報告されており、安全性の高さを示しています。※
その他、注射した部位が赤くなったり、腫れたりすることがありますが、多くは一時的なものです。気になる症状が現れた場合は、自己判断せず、すぐに主治医に相談しましょう。
【費用シミュレーション】アドトラーザとデュピクセントの自己負担額
アドトラーザやデュピクセントでの治療は、薬剤費が高額になるためご自身の負担がどのくらいになるか、気になるところだと思います。
しかし、日本の公的医療保険には「高額療養費制度」という心強い仕組みがあり、これを活用することで1カ月あたりの自己負担額には上限が設けられます。
実際の支払額がいくらになるのか、具体的なシミュレーションで見ていきましょう。
薬剤費の比較(3割負担の場合)
3割負担の場合、薬剤費そのものはアドトラーザの方がデュピクセントよりも安く設定されています。
初回投与時(2本)で約1万円、2回目以降の維持期(1本)では2週間ごとに約5,000円の差があります。
| 薬剤名 | 投与量 | 薬剤費(1本あたり) | 3割負担額の目安 |
|---|---|---|---|
| アドトラーザ | 300mgペン | 41,859円 | ・初回(2本):約25,120円 ・2回目以降(1本):約12,560円 |
| デュピクセント | 300mgペン | 58,755円 | ・初回(2本):約35,260円 ・2回目以降(1本):約17,630円 |
| ※2024年6月時点の薬価。実際の支払額は処方内容や調剤薬局での手数料などにより変動します。 |
ただし、薬の選択は単純な薬剤費だけで決めるものではありません。治療によってどれだけ生活の質(QOL)が改善したかという「費用対効果」の視点も重要です。 ある研究では、アドトラーザ(トラロキヌマブ)は、患者さんの状態によっては、治療の満足度とコストのバランスに優れた選択肢となり得ることが示唆されています。※
高額療養費制度の仕組みと申請方法
高額療養費制度は、1カ月(1日〜末日)の医療費が高額になった場合に、支払い上限額を超えた分が払い戻される国の制度です。
この制度があるおかげで、アドトラーザやデュピクセントのような高額な治療も、経済的な心配を減らしながら続けやすくなります。
押さえておきたいポイントは以下の3つです。
世帯合算 同じ健康保険に加入しているご家族の医療費や、複数の病院・薬局での支払いを1カ月分としてまとめられます。
多数回該当 過去12カ月以内に3回以上上限額に達した場合、4回目からは上限額がさらに引き下げられ、負担が軽くなります。
事前申請がおすすめ あらかじめ「限度額適用認定証」を申請しておけば、会計時の支払いを自己負担上限額までに抑えられます。後から払い戻しの手続きをする手間が省けるため、最もスムーズな方法です。
認定証は、ご自身が加入している健康保険組合や協会けんぽ、お住まいの市区町村(国民健康保険)の窓口などで申請できます。
所得別の自己負担上限額と還付額の目安
高額療養費制度で定められている1カ月あたりの自己負担上限額は、年齢と所得によっていくつかの区分に分かれています。
70歳未満の方の所得区分と自己負担上限額の目安は、下表のとおりです。
【所得区分と自己負担上限額の目安(70歳未満)】
| 所得区分 | 年収の目安 | 1カ月の自己負担上限額(多数回該当なし) |
|---|---|---|
| 区分ア | 約1,160万円~ | 252,600円 + (総医療費 – 842,000円) × 1% |
| 区分イ | 約770万~約1,160万円 | 167,400円 + (総医療費 – 558,000円) × 1% |
| 区分ウ | 約370万~約770万円 | 80,100円 + (総医療費 – 267,000円) × 1% |
| 区分エ | ~約370万円 | 57,600円 |
| 区分オ | 住民税非課税者 | 35,400円 |
| ※「総医療費」とは、保険適用前の10割負担の金額を指します。 |
例えば、年収500万円(区分ウ)の方がアドトラーザの治療を受け、1カ月の総医療費が約50万円(3割負担で約15万円)だったとします。 この場合、自己負担上限額は「80,100円 + (500,000円 – 267,000円) × 1% = 82,430円」となります。
さらに、ご加入の健康保険組合によっては、独自の「付加給付制度」で負担がもっと軽くなるケースもあります。詳しくは、お手元の保険証に記載されている保険者へお問い合わせください。
結局、私にはどちらが合っている?
アドトラーザとデュピクセントは、どちらもアトピー性皮膚炎に優れた効果を示す治療薬ですが、どちらがご自身に合っているかは、一人ひとりの状況によって異なります。
治療薬の選択は、これまでの治療でどのような効果があったか、かゆみや皮疹といった症状の特性、そして通院頻度などのライフスタイルを総合的にみて判断します。
ご自身の希望や体の状態を医師とじっくり話し合い、納得できる治療法を選びましょう。
デュピクセントで効果が不十分だった方へ
デュピクセント治療で期待した効果が得られなかった場合、アドトラーザが新たな希望となることがあります。
この2つの薬は、アトピー性皮膚炎の原因物質へのアプローチが異なります。
- デュピクセント:「IL-4」と「IL-13」の両方を抑える
- アドトラーザ:「IL-13」だけをピンポイントで抑える
アトピー性皮膚炎のつらい症状、特にかゆみや皮膚のゴワつき(苔癬化:たいせんか)には「IL-13」が中心的な役割を果たしていると考えられています。
もし、デュピクセントの効果が十分でなかった理由が、ご自身の症状にIL-13が強く関わっているためであれば、そのIL-13だけを狙い撃ちするアドトラーザに切り替えることで、これまでとは違う反応を実感できる可能性があります。
治療を諦める前に、ぜひ一度、主治医に相談してみてください。
注射の頻度を減らしたい方へ
お仕事や学業、子育てなどで忙しく、頻繁な通院が難しい方にとって、自己注射が可能なアドトラーザは治療を続けやすくする大きな助けになります。
アドトラーザは2週間に1回の皮下注射が基本ですが、医師の指導のもとで自己注射を習得すれば、通院の頻度を3カ月に1回程度まで減らせます。
通院の時間的な制約や移動の負担が軽くなることは、治療と日常生活を両立させる上で大きなメリットです。
自己注射と聞くと不安に感じるかもしれませんが、クリニックで看護師などが丁寧に指導しますので、ご安心ください。
小児・高齢者・妊娠を希望される方へ
アドトラーザの使用は、年齢やライフステージに応じて慎重な検討が必要です。
小児の方 現在、日本国内でアドトラーザの投与が認められているのは成人です。15歳未満の小児に対する安全性や有効性は、まだ確立されていません。
高齢者の方 お体の状態を慎重に確認しながら治療を進めます。治療中に気になる症状があれば、どんな些細なことでもすぐに医師へ相談してください。
妊娠・授乳中、またはそのご希望がある方 ご自身の判断で治療を中断したりせず、必ず事前に医師へ相談することが何よりも大切です。
【妊娠中の方】 治療によるメリットが、赤ちゃんへのリスクを上回ると医師が判断した場合にのみ、投与が検討されます。
【授乳中の方】 アドトラーザは分子量が大きいタンパク質でできており、母乳へ移行する量はごくわずかと考えられています。さらに、万が一、母乳を介して赤ちゃんの体内に入っても、消化管で分解されるため、ほとんど吸収されないと推測されています。※
このため、一部の専門家は授乳中の使用は可能との見解を示していますが、新生児や早産児の場合は特に慎重な判断が求められます。※ ご自身の希望と体の状態をふまえ、医師と一緒に最適な方針を決めていきましょう。

治療開始までの具体的な3ステップ
アドトラーザによる治療は、①専門医による診察、②治療前の検査、③初回投与と今後の計画確認、という3つのステップで進みます。治療全体の流れをあらかじめ知っておくことで、安心して第一歩を踏み出せるようになります。
ステップ1 専門医への相談と診察
まずは皮膚科の専門医に相談し、アドトラーザ治療の対象となるかどうかの診察を受けます。
アドトラーザは、既存の治療法(ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏など)で十分な効果が得られなかった、中等症から重症のアトピー性皮膚炎と診断された15歳以上の方が対象です。 診察では、皮疹の範囲や炎症の強さなどを客観的な指標(重症度スコア)で評価し、アドトラーザの適応があるかを慎重に判断します。
正確な診断と最適な治療方針の決定には、ご自身の状況を詳しくお伝えいただくことが欠かせません。 診察時には、以下の内容についてお聞かせください。
- いつから、どの部分に、どのような症状が出ているか
- これまで受けた治療(塗り薬、飲み薬、光線療法など)とその効果
- かゆみで眠れない、仕事や学業に集中できないといった日常生活での具体的なお悩み
これらの情報をもとに、医師が治療の必要性を判断します。不安な点や疑問に思うことがあれば、納得して治療を始められるよう、どんなことでも気兼ねなくご質問ください。
ステップ2 治療開始前の検査項目
アドトラーザを安全に使うため、治療を始める前にいくつかの検査を行い、お身体の状態をチェックします。
アトピー性皮膚炎の症状だけでなく、全身の健康状態を把握することが目的です。 主な確認項目を、下表に整理します。
| 検査の種類 | 主な目的と確認事項 |
|---|---|
| 問診 | ・過去にかかった病気や現在治療中の病気 ・寄生虫の感染症(感染が疑われる場合は、先にそちらの治療を優先します) ・長期のステロイド内服歴 ・妊娠や授乳の可能性 |
| 血液検査 | ・肝臓や腎臓の機能 ・アレルギー反応や炎症の程度(TARCなど) ・治療前後の変化を比較するための基礎データ取得 |
| その他の検査 | ・必要に応じて、結膜炎などの合併症の有無 ・結核などの感染症がないか(胸部X線検査など) |
特に血液検査について、アドトラーザは治療中に肝臓の機能に影響を与えたという報告はされていませんが、万全を期すために治療開始前の状態を記録しておくことが重要です。※ これらの検査結果を総合的にみて、医師が治療を開始できるかを最終判断します。
ステップ3 初回投与と今後のスケジュール確認
検査で問題がなければ、いよいよ初回投与を行い、今後の治療スケジュールを具体的に確認していきます。
アドトラーザの治療で押さえておきたいポイントは以下のとおりです。
投与スケジュール 初回は通常量の2倍にあたる600mg(ペンタイプなら2本)を皮下注射します。 2回目以降は、2週間ごとに300mg(ペンタイプなら1本)を注射するのが基本のサイクルです。
効果の評価と継続判断 多くの臨床試験で有効性が確かめられており、例えばある第3相臨床試験では、偽薬(プラセボ)と比較して、統計的にも意味のある顕著な皮疹の改善が報告されています。※ 治療の効果は、一般的に投与開始から16週(約4カ月)を目安に評価し、その後の治療を継続するかどうかを医師と相談しながら決めていきます。
外用薬との併用 アドトラーザ治療中も、皮膚のバリア機能を保つための保湿剤によるスキンケアや、必要に応じたステロイド外用薬の塗布は、治療の土台として非常に重要です。自己判断で中断せず、必ず医師の指示に従って継続してください。
自己注射への移行 通院での注射に慣れ、医師が問題ないと判断すれば、ご自身で注射を行う「自己注射」に切り替えることもできます。自己注射に移行すると、通院の頻度を3カ月に1回程度まで減らすことができ、治療と生活の両立がしやすくなります。
治療中の注意点 アドトラーザの投与中は、免疫の働きに影響する可能性があるため、生ワクチン(麻疹・風疹混合、水ぼうそう、おたふくかぜなど)の接種は避ける必要があります。

まとめ
アドトラーザとデュピクセントは作用の仕組みが異なり、どちらが適しているかは症状やライフスタイルによって変わります。
かゆみへの効果の速さや自己注射の可否、結膜炎の頻度など、それぞれの薬には特徴があるといえます。 高額な薬剤費も、高額療養費制度を活用すれば経済的な負担を軽減しながら治療を続けることも可能です。
デュピクセントで効果が十分でなかった方や、通院の負担を減らしたい方にとって、アドトラーザは新しい選択肢になる可能性があります。 一人で悩まず専門の医師に相談し、ご自身の希望や体の状態を伝えて納得のいく治療法を見つけていきましょう。
参考文献
- A Wollenberg, A Blauvelt, E Guttman-Yassky, M Worm, C Lynde, J-P Lacour, L Spelman, N Katoh, H Saeki, Y Poulin, A Lesiak, L Kircik, S H Cho, P Herranz, M J Cork, K Peris, L A Steffensen, B Bang, A Kuznetsova, T N Jensen, M L Østerdal, E L Simpson; ECZTRA 1 and ECZTRA 2 study investigators. Tralokinumab for moderate-to-severe atopic dermatitis: results from two 52-week, randomized, double-blind, multicentre, placebo-controlled phase III trials (ECZTRA 1 and ECZTRA 2).
- A Wollenberg, S Weidinger, M Worm, T Bieber. Tralokinumab in atopic dermatitis.
- H A Blair. Tralokinumab in Atopic Dermatitis: A Profile of Its Use.
- S J Edwards et al. Abrocitinib, tralokinumab and upadacitinib for treating moderate-to-severe atopic dermatitis.
- Tralokinumab (Adbry ®).
- Tralokinumab.